名古屋大学SATREPS

SATREPS Project on “Rice Research for Tailor-name Breeding and Cultivation Technology Development in Kenya” テーラーメード育種と栽培技術開発のための稲作研究プロジェクト

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プロジェクトの概要

背景

急増するアフリカのコメ需要

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ケニアの米穀店

コメは、サブサハラアフリカの多くの国において、主食のひとつとして位置づけられる重要な穀物です。サブサハラアフリカにおけるコメの消費量は、域内人口が増加していることに加え、一人当たりの消費量が増加しているため、急増しています。しかし、これらの国のほとんどにおいて、需要増加に対して国内生産が追いついておらず、輸入に頼っているのが現状です。サブサハラアフリカ全体のコメの自給率は約70%程度にとどまっており、需給ギャップは約700万トンに達しています。今後も都市化の進展に伴い、他の穀物に比べて、調理が比較的簡単で、栄養価に富み、食味の良いコメの消費はさらに伸びていくことが予想されます。このような状況を背景として、コメの増産はサブサハラアフリカの多くの国における食糧安全保障上の重要課題となっています。

本研究の対象国であるケニアでも1990年以降消費量が急増し、年間30万トン以上を輸入しており、自国での増産が喫緊の課題となっています。

稲作の現状と課題

アフリカ大陸東岸、赤道直下に位置するケニアには、海岸沿いの低地から標高約1400mの高地にかけて稲作地帯が点在しています。これらの異なる栽培環境下において、天水低湿地における在来農法による粗放的な稲作、整備された灌漑水田における近代農法による稲作、新たに導入された陸稲ネリカの栽培など多様な稲作が行われています。

ケニアにおけるイネの作付面積は、2000年から2011年の10年間に1万3千ヘクタールから2万8千ヘクタールへと増加し、コメ生産量(籾換算)は、約5万2千トンから11万トンへと倍増しました(FAOSTAT, 2012)。これまでの増産は、主に作付面積の拡大によるものでしたが、今後のさらなる増産を実現するためには、作付面積の拡大はもとより単位面積当たり収量の増大が重要です。

ケニアの稲作は、旱ばつ、高地で起こる冷害、塩害、低肥沃土壌、いもち病、イネ黄斑病など様々な生物的・非生物的ストレスによって阻害されています。コメの増産を実現するためには、これらのストレスを克服する品種の育成、肥培管理や作付体系を含む現地に適した栽培技術の開発、品種や栽培技術を農家に効果的に普及するための戦略が必要であり、これを実施するための人材育成が急務となっています。

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干ばつで枯れ上がったイネ 冷害により発生した不稔籾
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いもち病に感染したイネの葉 灌漑畑における節水栽培の様子

国際共同研究・国際協力の必要性

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ケニアにおける圃場実験の様子

近年の遺伝育種学や作物学の進歩により、作物生産上有用な様々な形質とそれらに関与する遺伝子/QTLが明らかにされ、これらの形質をテーラーメードで導入して品種改良を行うことが技術的に可能となっています。すなわち、DNAマーカーや全ゲノムSNP(Single Nucleotide Polymorphism)情報を利用することによって、交配によって育成した系統の中から、目的とする遺伝子/QTLを持った個体を効率的に選抜し、品種を作り出すことができます。

名古屋大学の農学国際教育研究センター、大学院生命農学研究科および生物機能開発利用研究センターを中心とし、山形大学、岡山大学、島根大学および東京農工大学の研究者を加えた私たちの研究グループでは、愛知県農業総合試験場の協力も得て、これまで、DNAマーカー選抜などの技術を利用し、耐旱性、耐冷性、いもち病抵抗性、多収性、低肥沃土壌適応性などに関連する遺伝子/QTLを導入した系統を交配・選抜してきました。

しかし、栽培の現場で発揮されるストレス耐性や生産性は、品種のもつ遺伝的要因だけで決まるわけではなく、栽培環境と栽培管理による影響を受けて変化します。栽培の現場に適応可能な品種および栽培技術を開発するためには、現地の栽培環境下で有効に機能する形質とそれに関与する遺伝子/QTLを特定し、これらを導入した品種を開発するとともに、品種の能力と現地の栽培環境に応じた栽培技術を確立することが重要です。そして、そのためには、現地の栽培環境下で栽培実験を行い、遺伝子/QTLの機能発現に対する栽培環境要因および栽培技術要因の影響を解析する必要があります。

日本の研究チームとケニア農畜産業研究機構(KALRO: Kenya Agricultural & Livestock Research Organization)を中心とするケニアの研究チームが協力することにより、日本の先進研究技術とケニアにおける現地栽培試験が融合され、現地のストレス条件に応じた品種改良と品種の能力を十分に発現させる栽培技術の開発が可能となります。将来的には、本研究モデルを他国・地域にも適用し、サブサハラアフリカ各地域の栽培環境に適した品種、栽培技術の開発に協力できる体制の構築を目指します。

これまで稲作研究がほとんど行われてこなかったケニアでは、イネ研究者が不足しており、イネ研究の基盤が十分整備されておりません。本プロジェクトを通して、ケニアの若手イネ研究者を育成し、KALROムエア支所をケニアにおけるイネ研究の拠点として整備することも重要な活動です。